WELLZ UNITED株式会社
2026年01月16日更新
廃校から生まれる地域の新たな可能性
— WELLZ UNITEDが実践する「幸せの循環」
少子高齢化が進む地方では、学校の統廃合による廃校や耕作放棄地が増え続けている。京都府福知山市では、電気・システム事業を手がける井上株式会社のホールディングス会社「WELLZ UNITED」が地域の廃校を活用し、いちご栽培やクラフトビール醸造に取り組み、新たな人の流れと雇用を生み出している。
先に目的を設定し、社会課題の解決を前面に掲げるのではなく、社員の内発性を軸に地域で活動する中で「出会いとノリ」を大切にしながら、地域とともに成長する姿勢。そこには「毎日がちゃんと幸せで、成長するいい会社」というWELLZ UNITEDの企業理念が根底にある。 『Happy Spiral』という10年ビジョンを掲げ、社員だけでなく関わるすべての人を笑顔にしていく「幸せの循環」を創り出す同社の取り組みから、これからの地域活性化のあり方のヒントを探る。
地域を知ることから始まる、共創のプロセス
WELLZ UNITEDの代表取締役・井上大輔さんは、地域課題に取り組み始めたきっかけについてこう語る。
「私たちは『毎日がちゃんと幸せで、成長するいい会社』という企業理念を掲げています。私たちにとっての幸せを追求する中で、すべてのステークホルダーが幸せでないと自分たちだけで幸せになるのは難しいことに気づきました。その中で長年事業を展開してきた地元でもある『地域』という存在が浮かび上がってきたんです」

“代表取締役 井上大輔さん”
しかし当初は、世の中に地域創生やSDGsといった言葉だけが飛び交い、実際には何をすればいいのか分からない状態だった。
「社内では”分かった風”にならないようにしようと。まずは自分たちが経験して学ぼう、地域について知ろうということを決めました。知らないことを解決するのは難しいので、まず『知ること』から始めたんです」
折しも社内で立ち上げた「地域新規事業」のメンバーが地域を巡りながら自分たちのやりたいこととも掛け合わせた結果、農業に取り組むことになった。そして、農地を探す中で出会ったのが廃校となった旧・中六人部小学校だったという。
「私たちの活動は、初めから農業や廃校活用を目的にしていたわけではなく、地域を知りたいという想いから始まりました。それが廃校に行き着き、地域の声を聴いていくなかで、初めて地域の課題を肌で感じることができたんです」
多様な人が自然に集まる「THE610BASE」
— 壁を作らない場づくり
旧・中六人部小学校を活用した「THE610BASE(ムトベース)」。
ここでは、WELLZ UNITEDが手がけるいちご栽培やクラフトビール醸造だけでなく、地域の声やニーズを踏まえ、学校カフェやマルシェなど、さまざまな地域の活動が展開されている。
「意図して学校に壁を作らないようにしています。民間企業が学校を借りると、つい『関係者以外立入禁止』のような場所になりがちですが、私たちはあくまで小学校を公園のような公共空間としてオープンにしています」と井上さん。
その結果、大学生の研究プロジェクトや中学校の部活動、お母さんたちの手作りマーケットなど、さまざまな人々が自然と集まってくるようになった。イベントが開催されていないときでも、地域の方が何気なく立ち寄ることもあるという。
WELLZ UNITEDでチーム経営サポートのリーダーを務める大槻宏美さんは、このような活動を通じて生まれた変化をこう語る。
「もともと井上株式会社は法人向けのBtoB事業が中心で、一般市民の方々に名前が知られているわけではありませんでした。でも『THE610BASE』を始めたことで、これまで接点がなかった方々と出会う機会が格段に増えました。」

“大槻宏美さん”
さらに、「THE610BASE」の特徴の一つは、多様な人たちが混じり合う環境の中で、高齢者や障がい者の方の雇用を生み出している点だ。重労働ではないハウス内でのいちご栽培は、高齢の方々にも農作業を依頼しやすい。また、障がい者雇用に関しては、地域の社会福祉法人との連携や、社員が障がい者職業生活相談員の認定講習を受講するなど、クラフトビール事業での雇用に向けて準備を進めている。
「学校は地域の顔であり、人が集うシンボル的な役割を担っています。さまざまな人たちにとって『働く場所があること』、そして彼らが『笑顔で働けること』で、その家族も含めて安心できる場所をつくっていきたい。そのためには、既存の制度や先入観にとらわれない働き方と多様な人材の確保・育成がますます重要です」と井上さんは強調する。

「ノリと出会い」で共創し続けるプロジェクト
「計画ありき」ではなく、「ノリと出会い」を大切にするWELLZ UNITED。廃校でいちご栽培を始めたのも、社員たちの「ハウス栽培なら環境制御という自社のシステム関連の知識が活かせる」というアイデアがきっかけだった。
「最初はトマトをやろうと思っていたんですが、プロジェクトメンバーのほとんどがいちご栽培をやりたいと言い出して(笑)。さらに地域のいちご農家さんに相談に行ったら、話が終わる前に『やってくれ』と言われて決まりました」
2024年4月には、クラフトビール事業も立ち上げ、丸1年が経過した現在も、さらなる出会いによって新たなプロジェクトが生まれ続けている。

「西宮市(兵庫県)の障がい者施設の方が来られて、彼らが描いたアートを私たちのビールのラベルにしたいという話も出ています。京都市の複数のカフェとの連携も始まっていますし、地元の農家さんと一緒にビールの原料(ホップ)を作ったりもしています」
綿密な計画を立てるよりも、出会った人たちとの関係性を築きながら自然に生まれ続けるプロジェクト。その背景には井上さんの「歩みを止めないことが大事」という考えがある。
「私たちは、『happy spiral』という10年ビジョンのもと、さまざまなステークホルダーを笑顔にすることを目指しています。ただ、10年ビジョンと言っても、5年後、10年後にどうなっていたいかと問われると、それは実はステークホルダー次第なんですよ。相手が何を求めているのか、どういう課題を持っているのかを知り、それに対して、私たちができることを積み重ねていくことで笑顔のスパイラルが広がっていくと考えています」
内と外をつなぐ「渦」のような組織
そのような社外での共創が生まれ続けることは、社内に対してどのような影響があるのだろうか?WELLZ UNITEDの組織としての特徴は、内部と外部の相互作用にある。井上さんはそれを「渦」に例える。
「自社では、社員一人ひとりの内発的動機、つまり『内側からの動機づけ』を大切にしています。渦って真ん中が動くことでたくさんの水が入ってきて出ていっていますが、形は維持されていますよね。組織も同じで、真ん中にある『毎日ちゃんと幸せであろう』という思いがあるからこそ、内発的・自発的にいろいろな活動ができるんです」
実際、WELLZ UNITEDのメンバーは全国各地から集まってきている。最も近い人でも亀岡市、遠い人は鹿児島県鹿児島市から来ているという。これは戦略的に採用したというよりも企業理念に惹きつけられた人材が自然と全国から集まってきた結果だ。多くの地域企業が若手人材の採用に課題を抱えている中、同社には例年多くの若者が応募してくるという。
「今の若い人たちは大学などで『地域創生』を学ぶ機会が多い。けれど、実際に現場で活躍できる場所が少ないんです。採用募集をすると地域と関わりたい若者がたくさん応募してきます。そういう意味で、私たちのような実際に地域で活動できるフィールドをもっている企業は貴重なのかもしれません」

“採用プロジェクトの活動”
社員の幸せを追求する同心円上にステークホルダーの幸せを位置付けること、地域とともに新しい価値を生み出す挑戦のフィールドがあること、渦のように社内外を行き来しながら、自分の内側からやりたいことと結びつけること。同社の共創プロセスには、これからの企業と地域づくりのあり方のヒントが満載だ。
これからの企業と地域づくりに必要なこと
多くの企業が、企業の社会的責任(CSR)や持続可能な開発目標(SDGs)をうたい、地域との関わり方として「課題解決型」のアプローチをとる中、WELLZ UNITEDは「出会いとノリ」という一見冗談のような独自のアプローチで、地域とともに新たな価値を生み出し続けている。その背景には、課題起点ではなく、すべての人の「幸せ」を起点にして地域とつながり、多様なステークホルダーと共創していく「創発型」の姿勢がある。
「世の中はこれから安定には向かわないでしょう。そのような時流の中で大切なのは、歩みを止めないこと。あとは環境次第ですし、その時々によって私たちの感受性も変わります。歩み続ける中で様々なことをキャッチしながらアクションを止めないことが一番大事なんです」
井上さんのこの言葉は、企業経営と地域創生に取り組む多くの人たちへのエールでもある。計画や目標に縛られすぎず、多様な人たちとコミュニケーションを重ねながら、すべての人が笑顔でいられる場所を共創していく。そのプロセスでは、行政や民間企業の一方的な計画や戦略(往々にして経済的効果だけを狙うものが多い)ではなく、関わる人たちの思いや地域の資源を活かし合うことがドライブになっていく。

“社会科見学の様子”
廃校という地域にとって「失われた場所」が、創発的な共創によって新たな出会いと可能性の場に変わるとき、地域は自然と活気を取り戻していく。WELLZ UNITEDの歩みを止めない取り組みは、これからの地域づくりに必要な「開かれた場」と「創発」の重要性を教えてくれる。
取材後記
取材を通じて印象に残ったのは、井上さんが繰り返し口にした「たまたま」という言葉だ。 いちご栽培も、廃校活用も、クラフトビール醸造も、すべては「たまたま」の出会いと決断の積み重ねだという。
しかし、それは決して無計画や場当たり的な行動ではない。「毎日がちゃんと幸せ」という軸がぶれないからこそ、臨機応変に、そして自由に動くことができるのだ
私たちも普段、何か新しいことを始めるとき、初めから綿密な計画や確実な成功を求めすぎていないだろうか。VUCAと言われる先が見通せず正解のない時代、WELLZ UNITEDの「出会いとノリ」という創発型のアプローチは、動きながらブラッシュアップし続けることの大切さを教えてくれる。
そして、本当の意味での地域創生とは、きっと特定の課題を解決することだけではなく、多様な人々が自由に集い、それぞれの「やりたいこと」を実現できる場をつくることなのかもしれない。廃校という「失われた場所」から、新たな可能性を生み出すWELLZ UNITEDの挑戦は、これからも続いていく。
[取材:株式会社ジャムセッションズ 井上良子/高橋啓太]